蒼天の白き神の座、頂きで見た白銀の世界は、今もまだこの網膜に焼き付いている。

ある日の夜、西山先輩がゲームをもって部屋を訪ねてきた
これこそあの伝説の雪山登山ゲーム

蒼天の白き神の座』である。


…しかし、
この男はよくもまぁフ○ミ通レビューでも載せないような
コアなゲームばかり持ってくるものだ;汗
西山先輩センサーの感知する物事は、常人の考えの斜め上を行っているよ
そこには敬意を表したい。。



早速プレイをしてみる
コントローラーを持つのは西山先輩…ではなく私だ。

この男、もとい西山先輩は難しそうなゲームは
必ずと言って良いほど私に先に実況させ、
自分は見ているというスタイルを取る。

でも、そう言う時は大抵当たっていて
反射神経を要する激ムズシューティングゲーム
クリアすると実際に将棋連盟から表彰状が貰える、読み込みにやたら時間の掛かる将棋ゲーム等
本人では、疲れて進まないゲームばかりだ

だけど後ろからアドバイスを出して
私がクリアすると
一緒に攻略した気になれるそうで…
この男はこういうスタイルを取るのだ。
やれやれ。




そして今回のゲーム
蒼天の白き神の座』は
はっきり言って
無理ゲー、そのものであった。



まず
システムの解釈に時間がかかる上に
用語が全て専門的な物
ゲームの中で時間をかけて下準備をしなければならない
が、しっかり下準備をしたところで
予期せぬ出来事が発生する!
まさに雪山を現す事態!
滑落、雪崩、体調不良など迫り来る危機
そして、それによりにより隊員死亡。
積み。。


うん
無理。。



私は匙を投げた

すると、珍しく西山先輩が自らコントローラーを手に取ったのだ。
「自分で進めて見るよ、俺のだし」


バカな。
この人がこんな事を言うなんて
一体何があったのだ!

しかし、私の心配をよそに淡々とゲームを進める西山先輩
どうやら理不尽な程難易度の高いこのゲームが、彼の魂に火を付けたらしく
めんど臭がり屋の彼を突き動かしたようだ。
そう言えば
やると言ったら諦めないのがこの男だったな!


私は彼を温かい目で見守る事にした


そうして幾日かたった頃

西山先輩「ついに、一つ目の山をクリアしたぞ…登頂成功だ!」
※ゲーム内には登れる山が幾つか有る

私「おおっー!あの高難度のゲームをよく…。」
感心した、さすが諦めない男

西山先輩「そこでだ、明日休みだし
リアル『蒼天の白き神の座ごっこしない?答は聞いてないから☆」

前言撤回、マジか
いつか言うとは思ったんだ、影響されやすいから
しかも答は聞いてないって、強制ぢゃないかなんだよソレ

…そんなワケで近くにある山に、ソリを持って登頂する事になったのであった。




翌日、私の他にもう一人
Y田君も犠牲者に加わり、3人で登頂開始
ゲーム内で身につけた良く解らない用語を連発し、笑いながらながら登っていく

しかし
流石は雪山緩やかな登り坂、常に新雪の上を歩く付加
あっという間に体力が無くなっていく

半分近く登った所でふいに西山先輩が
「…どうする?皆かなり疲れた様子だけど…。」
と、聞いてきた

珍しく無理矢理私とY田君を連れてきた事を気にしているようだ。

たしかにヘロヘロだ
先程から皆口数が少ない
大きく呼吸をした、Y田君も息が上がっているようだ

体が重い
足がだるい
呼吸が落ち着かない
雪山を登るのがこんなに辛いとは思わなかった
正直、遊びなのに何故こんな辛い思いをしなければならないのか
ある種の怒りさえ沸いていた。
ここまで来たなら一気にいこう!


Y田君「…ここまでキタンダ!最後までイキマショ…!」

私「自分も…そうシタイ…!」

西山先輩「…皆の…意見は…一致したヨウダナ!」

※↑↑皆疲れているためカタコトになっています


そうして、残りの半分を勢いで行く


そして
森を抜け、開ける風景

山頂である

登頂と同時にその場に倒れ込む3人
この山は一般的には低い山なので山頂はちょっとした広場の様になっている

…回りには何もない
車の音や小鳥の鳴き声
雑音すら聞こえてこない
見渡すかぎり白銀の世界がそこにあった

私は空を見上げた

雲一つ無い青空

蒼天の空の下で
辺りを白銀に覆われたこの世界に
私達3人だけが
そこにいたのだ。

「疲れたけどさ…」

「キレイだ…」

「あぁ…本当にキレイだなあ…」

私達は感情を共有し、辛い事を成し遂げたのだ
そこには成し遂げた達成感があったのだ

凍てついた大地は、私達にはとても暖かかった。






…現在。
コンクリートに囲まれた灰色の世界
そんな世界の中で
私は大の字に草むらに横たわって
じっと空を見ていた

乾いて、よどんだ空
ここでは雪が降らない

ここに
あの白銀の世界は無い…
曖昧な感情が世界を黒く塗りつぶしていくだけだ。

パニック障害
鬱病
それらを引き連れて
このまま腐って行くのかと、そう思っていた。


けれども夢を見たのだ
あの日見た光景、白銀の世界
蒼天の白き神の座、小さい山ではあるが私達は確かにあの頂に居た。



もう一度
そして
何度でも立ち上がろう
いつからか、辛い事にだけ感情が先行して楽しいことを忘れていた。
立ち上がれればやり直せる
やり直せればもう一度、あの場所に行けるかも知れない。

思い出したのだ
決して諦めない男が居た事を


…再び奮い立つ
久しく忘れていたのだ

決して諦めない、という事を!!


そうして私は、草むらから体を起こした。。